88 ねずみ沢のかっぱ

88 ねずみ沢のかっぱ

 とおい昔、貯水池ができるずっと前のことだよ。蔵敷のなかに、ねずみ沢という池があった。そこは森のように木が茂っていて、うす暖く、水は氷のように冷たかった,しかし、子どもたちはよく遊びに行ったものだ。
 夏になると泳いだり、魚をとったり、おもしろくてしかたがなかった。
 その池に、かっぱが出たんだよ。
 ある日のことだった。いつものように、仲聞と遊びに行った子が、泳いでいるうち急に姿が見えなくなった。池っばたで連れの子たちがさわいでいると、その子はぷかりと浮かび上ってきてニヤニヤ笑い、また沈んでしまった。
 なんと、かっぱが引きずり込んだんだ。
 もう、みんなたまげたね。可愛そうに、子どもは水死してしまったが、なぜ笑ったのかな。
 それは、かっぱに腹の物ぬかれたからだ。抜かれるときは、そりゃあくすぐったいもんだとさ。かっぱは、人間のぞう物が好物で、それを尻からするする吸うんだそうな。その子の尻に大きな穴があいていたということだ。
「ほんとに気味がわるい。かっぱに取りつかれるから、もう池に行ってはいけないよ。」
 おじいさんは、子どもたちにそう言いました。
 ねずみ沢の池は上堰堤(かみえんてい)の近くにあって、今は貯水池の中に沈んでいます。(p193~194)